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続編 第四章 相思相愛5

last update Last Updated: 2025-01-19 18:13:16

大くんの甘くて包み込んでくれるキスが大好き。

お互いに手を伸ばして抱きしめ合う。

そして、もっと唇を強く押し付けて、舌を絡めた。

キスしたまま畳に押し倒される。

足の間を割って体を密着させてくる大くん。

熱い吐息が耳に届いて、胸が疼く。

シャツのボタンを一つずつ外されて袖から腕を抜くと、肩に吸いついてきた。

くすぐったくて大くんを睨む。

「いやん、もう」

もちろん、本気で睨んでいるわけじゃない。照れ隠しもあったりする。

私の心なんてお見通しのようだ。

そのままキャミソールも脱がされた。

そして胸の谷間に顔を埋める。……と言っても豊満じゃないけれど。喜んでくれるから嬉しい。

大くんも服を脱ぐと相変わらず美しいボディーラインがあらわになる。

いつも頑張って鍛えているだけあるなって思った。

私を優しく抱きしめてくれた。

背中と膝の裏に手を差し込まれてお姫様抱っこをし、ベッドへ運ばれる。

高級旅館の布団は寝心地がいい。

うっとりする私を組み敷いた。

もう一度キスをする。

優しい口づけだった。いつも彼のキスからは愛情が感じられるけれど今日は一段と気持ちがこもっているように感じる。何度も何度も唇を重ね合わす。

数えきれないほど大くんと抱き合ってきたけれど、今日はすごく大事な時間だと感じていた。

一つになっていることが幸せすぎて、何も考えられなくなる。

大くんの赤ちゃんが……どうしようもなく、ほしい。

心からそう思った。

激しく動き合う意識の中――二人の体温が混ざり合っていく。

突然、動きを止めた大くんは私を見つめてくる。

「美羽。赤ちゃん……作ろうか?」

「え……?」

「いや?」

首を横に振る。嫌なわけがない。同じことを思っていたことに驚いているだけだ。

「私も、大くんの赤ちゃんがほしい」

「美羽……」

背中に手を回されて奥深くで一つになった私と大くん。大くんは私にたくさんの愛を放ってくれた。

もしも、授かることができれば今度こそ大切にお腹で育てて出産したい。心からそう思った。

家族を増やして色々な思い出を作っていきたい。

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